多彩な色使い、誰もが一度は夢見るファンタジーの世界。絵の中に入り込んで探検してみたいと感じるような井上直久氏の作品に出会ったのは中学生の時である。何色もの色で描かれた、現実にはありえない空想の世界は、小さい頃から私が夢にみていた世界だった。
井上氏の作品は明るい多色な色で描かれた空想画ばかりである。その中でも最も私が心惹かれた作品がこの「多層海」である。境界線のように浮かんだ白い帯は雲ではなく、波のない海面である。この作品も、鮮やかな木々が茂っている山の中に家が何件か建っていて,その山はなんと四層に分かれる海の中にそびえ立っているという空想画だ。他の作品と同じようなこの絵に私が惹きつけられた理由は、夢のようなありえない空想の世界の中に日本の四季が見られたからだ。描かれている一つの山はそれぞれの海面によって分けられていて、それぞれ木々の色が異なっている。一番下の層は、春。綺麗な花々が咲いていて、全体は淡いピンク色。次の層が、夏。緑が青々としている。そして、紅葉が美しい秋。鮮やかな赤色とオレンジ色が目を引く。最後は、山の頂上、真っ白な雪の積もった冬である。この木々の色の違いが四季を表しているのだと思った。空想の世界と日本の美しい自然の融合が、より私の興味をそそり、想像の世界を広げさせた。
幻想的な井上氏の描く世界は、描き方にも特徴がある。まず、真っ白なキャンパスにいろんな色のしぶきをかけて、色の入り混じった模様の下地を作る。入り混じった模様を眺めているうちに、描く像が浮かび上がってくるのだ。そして、少しずつ最初の下地に手を加えていくことで作品ができてくる。とても斬新な描き方だが、最終的には繊細で美しい絵が出来上がるので驚きだ。しかし、その何事にもとらわれない自由な描き方が、遊び心溢れる作品を生み出すのではないかと思う。
井上氏が描く美しい幻想の世界。その独特な世界を彼はイバラードと呼んでいる。空に浮かぶ浮き島、空を飛ぶ鉄道、植物が生い茂る建物。そんな夢や記憶の世界のように、自分が関心あるものや、気持ちがくつろぐものだけで構成した世界.『みんな見かたを変えれば、すごく不思議なものに見える。生きていることが面白くて仕方なくなる。』と井上氏は言う。見慣れたものでも少し見かたをかえれば、今まで気付かなかったことが見えてきて、またそれを表現することによって幻想的なものができあがるのであろう。私も一度今まで見てきたもの、住んでいる世界に対する見方を変えて自分だけの世界を想像し描いてみたい。

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